新・利他の経済学-1 The New Economics of Altruism

はじめに

経済学の祖といわれるアダム・スミスの著書は、通常、「国富論」と呼ばれています。しかし、正確には、「諸国民の富の本質と原因に関する研究」(”An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations”; 以下、「諸国民の富」)です。つまり、経済学は諸国民、人々の富の性質とそれがいかに高まるか、ということを追求した学問です。

経済学はもともと「利他」の視点をもっていたといえます。そして、豊かさとは、物的な豊かさだけでなく、心の豊かさを含めた、物心ともの豊かさです。利他とは、人類・地球・宇宙の豊かさの最大化です。それが本書の視点です。

アダム・スミスは「諸国民の富」の中で、有名な『見えざる手』(“an invisible hand”)という言葉を使って次のように述べています。

「見えざる手に導かれて彼の意図ではない結果を促進している。それは彼自身の意図でないにしても、社会にとって悪いわけではない。自己の利益を追求することで、真剣に社会の利益を高めようとするときよりも、より効果的に社会の利益を高めていることがしばしばである」

“…led by an invisible hand to promote an end which was no part of his intention. Nor is it always the worse for the society that it was no part of it. By pursuing his own interest, he frequently promotes that of the society more effectually than when he really intends to promote it.”

アダム・スミスのこの説明により「自己利益の追求」、「自己利益の最大化」が経済学の目的として定着したわけです。しかし、スミスが明らかにしようとしているのは、あくまでも「諸国民の富」がいかに高まるか、ということです。

地球環境問題に代表されるような、外部経済(不経済)の問題の深刻化により、利他の視点が重要になっています。それは、もともと経済学の視点だったわけですが、背後におかれていました。原点に帰ることが求められているといえるでしょう。

真理の把握こそ、実践の根幹です。経済学が実践の学、実学のゆえんです。

本書は、その前身である「財布がふくらむ 利他の経済学」に、グラフ、経済短歌を加え、その後の著者の調査研究と経験、実践を踏まえて、よりわかりやすく書かれています。

本書が、多くの生活者、実践者、ビジネスマン・ウーマン、研究者の参考になれば、著者としてこの上ない喜びです。

2022年1月

 

中湖 康太

 

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