本日は、東京都板橋区の常盤台住宅地の地価公示についてレビューし、今後の見通しなどについて意見を述べたいと思います。地価公示の対象となっている標準地は、駅北口から徒歩6分、常盤台2丁目24-5の287㎡、87坪の土地です。近隣地域の標準的な規模は300㎡であり、常盤台住宅地としては、ほぼ標準的なサイズです。南6メートル区道に接道、現況、RC2F1Bの建物が建っています。
結論からいうと、地価公示は、前年比5.0%増の1㎡当たり611,000円となりました。坪約202万円です。ちなみに全国の住宅地は、前年比+0.8%、東京都は+2.8%、東京23区+4.6%です。23区平均を上回る伸びとなりました。常盤台の対象地(標準地)の主な法令上の制限は、良好な住居環境を維持すべき地域としての第一種低層住居専用地域で建蔽率50、容積率100と土地の大きさに対して建物の規模が低く抑えられています。最高高さ規制も10メートルで、実質2階建となります。最低敷地面積100㎡が定められており、地区計画を除く一般的な都市計画法による規制では、東京23区では最も高いレベルになっています。また、良き景観を維持すべき地域として、板橋区の景観形成重点地域として指定されているほか、東京都のいわゆる「しゃれ街条例」のガイドラインが布かれています。
さて、地価公示に話をもどしますと、市場の特性としては、同一需給圏、つまり主たる需要者が直接比較対象とする不動産のある地域は、板橋区に地縁を有するエンドユーザーのいる範囲、板橋区、練馬区内の東武東上線沿線の最寄圏の住宅地域、とされています。また、需要者層は、総額の観点から富裕者層、高所得者層や地元開発業者等とのことです。但し、「東武東上線沿線随一の優良住宅地であることから同一需給圏外からの購入者も見られ、需給は安定している」、また、「供給は限定的であり、需要は堅調である」との記述があります。「市場での中心となる価格帯は、1億円台後半までのようである」、「一億円台後半の更地取引が他地域に比して比較的多く見受けられる」との指摘がなされています。坪約200万円とすると、80~100坪規模の土地取引がある、ということになるでしょう。
鑑定評価額の決定にあたって、「周辺にはアパート等もみられるが、自用目的での取引が中心である」、「住宅地としての市場性を具現した自己使用目的の取引が中心」とし、「地域にはアパートも見られるが、容積率が低いこともあり収益性に着目した取引は皆無といえ」との指摘があります。取引事例比較法による「比準価格は、(中略)実証的な価格を試算できた」、また、「信頼性の高い取引事例を多数収集しえた」とし、「市場性を反映した比準価格を採用し、収益価格は参考に留め」、鑑定評価額を決定したとあります。二人の不動産鑑定士の鑑定評価書から読み取っていますが、ほほ同等の見方です。なお、比準価格は、不動産鑑定士Aが661,000円/㎡、Bが607,000円/㎡、収益価格は、Aが286,000円/㎡、Bが332,000円/㎡となっています。つまり、収益価格は比準価格の46.8%~54.7%、約半分になっているわけです。ちなみに収益還元法(直接還元法)の、還元利回り(Cap rate)は4.2%となっています。内訳は基本利率(r)が4.5%、賃料の変動率(g)が+0.3%です。つまり、c = r – g =4.5 – 0.3 (%)。4.2%のキャップレートは、先日レビューした、ときわ台駅前商業地と同じです。
[補足: 収益価格の算定にあたっての想定建物は、LS(軽量鉄骨)2階建て共同住宅、40㎡程度のファミリータイプ(各階3戸)、基準階2F(B)の月額実質賃料2,921~3,056円/㎡、支払賃料2,800~2,930円/㎡、還元利回り4.2%;建物等の初期投資額51.9百万円、床面積252.00㎡(<基準容積287㎡)、有効率100%(長屋想定)、坪当り建築費68.1万円を想定]以上が、地価公示、鑑定評価のレビューです。次に、今後の見通しなどについての意見です。
まず、常盤台住宅地の強みです。駅前商業地で述べた点にも重なりますが、第一に、都心近郊住宅地として都心へのアクセスに優れた生活の利便性の良さです。池袋から電車で8分、大手町まで35分、自動車交通でも、環七沿いで都心(千代田区丸の内)まで12km程という近さ。
第二に、都市計画の専門家をして「優美なアーバンデザイン」といわしめる都市デザインの良さ。これについては拙著「常盤台住宅地物語」(GCS出版、amazon kindle版)をご参照ください。
第三に、これは私見でもあるのですが、戦前に開発された田園都市として、比較されることもある田園調布、成城と比べて、ほど良い規制が布かれており、景観を守る一方、収益用途として利用する際の用途規制が、優良住宅地としては比較的ゆるやかである、という点です。鑑定評価では、「周辺にはアパート等もみられるが」としつつも、「容積率が低いこともあり収益性に着目した取引は皆無といえ」と述べられています。しかし、逆に言えば、アパートなど収益物件として成立することがある、という事実です。これは投資の視点から実は重要なポイントです。これについても拙著に詳しく述べられています。
第四に、常盤台という地名が示すように、武蔵野台地の東部にある台地であり、水はけも良く、地盤が相対的に強固であり、災害に強いという点です。昭和11年に東武鉄道は、「健康住宅地」として売り出したことは、その一端を示していると思います。
一方、弱み、課題です。第一に、同一需給圏、つまり需要者が、東武東上線沿線のエリアにある、また地縁のある法人や個人であるということです。いわばローカルブランドである、という点です。地域性というのは土地の特性でもあるわけですが、より広いエリアの需要者にリーチするブランドまでになっていない、ということでもあります。平たく言うと、全国区、東京圏の富裕者層や有名人などが好んで選ぶ住宅地としてのブランドまでまだ達していない、ということでもあります。知る人ぞ知る住宅地であると同時に、誰でもが知っている住宅地ではないわけです。
第二に、商業地でも指摘しましたが、東武東上線の板橋区内の踏切の立体化は、大山駅で具体化されていますが、常盤台はその後、という点です。常盤台住宅地のあるときわ台駅北口と南口は踏切によって分断されており、かつては常盤台銀座とよばれた南常盤台商店街は、現在、中高層マンションへのシフトが進んでいます。もっともこれは都心近郊住宅地域のトレンドであるといえるかもしれません。
最後に、個人的な意見を述べたいと思います。わたしは、バリュー投資の観点から常盤台住宅地は極めて魅力的であると見ています。都心へのアクセスに優れた利便性、優れた都市デザイン、適度な規制によって景観が守れている一方、用途規制が比較的ゆるやかで、自由度がある。自己使用目的だけでなく収益目的として成立する個別性を有する土地が存在する、ということです。ローカルブランドも、なんらかのきっかけで、より広いエリアにリーチする可能性を秘めているとも思われます。バリュー投資の対象としても魅力があると見ています。
中湖 康太
2020年6月